003:聞こえた話

 最近、立て続けにひとに会う機会があった。

 

 はじめの日、 久しぶりに連絡のついた友人は(あいかわらずひょうひょうと生きていて)彼女さんを伴って現れた。

 そのひとは偶然、 私の大学の先輩にあたるひとで、 少女漫画が好きだと言うすてきなひとだった。

 

 彼女は 殺されたのは自分のクラスメイトだった と言った。

 私は証言者にはじめて会った。

 

 時の流れと事件の衝撃の比重が不釣り合いで、ふしぎというより戦慄にちかい感慨を受ける証言だった。二言、三言でも。

 

 その翌日か、

 はじめて会う先輩格のひとに、私はその話を持ちかけた。

 そのひとはさらりと、殺された彼の名前を引き出して応えた。

 私の周りより そのひとの周りではもっと 彼は身近なようだった。 会ったこともないだろうに。

 殺したほうの者だって もうこの世にいないのじゃないかと思われるような事件なのに。

 なにも古くないのだ。

 

 こっちにいると時の流れが妙な感じで、 明治時代のひとが谷中らへんを歩く小説の感覚もわかるような 現代離れしたところがある。

 事件は誰だったか 網走?だったかな そんな遠くのひとも聞いて知っていたけど、 古巣の東京には聞こえていない気がする。

 

 明治の小説ではよく人が死ぬけれど(それも身近で)、

 歩く町のまにまに死が漂う感じも こちらであればそう違和感もないのだ。今日は曇り空だなぁ、といったような。